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2012年 10月 14日

犬島アートプロジェクト【精錬所2】

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前回は犬島アートプロジェクトの美術館についてでしたが、今日は精錬所跡の見学について書いてみたいと思います。
美術館での見学を終え、暗闇から開放的な青空の元へでてきました。大きく背伸びをし深呼吸。「おお!気持ちいい!」と、男の子みたいに思わずそんな言葉が大きな声でてしまい、赤面です。それくらい解放感がありました。そして、友人は、暗闇で方向感覚を失ってしまい千鳥足で歩いていると、前を歩く女性の足をマウンテンブーツで思いっきり踏んでしまい謝っています。(かなり痛そうでした。ごめんなさい!)

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実は、精錬所跡の見学コースは、美術館の南にある現存する建物とその敷地の合間をぬうようにしてロープを張り巡らしてある土道と、精錬により生じたスラグを細かく粉砕し敷き詰めた小道を延べ、往復600~700mくらいを自由に歩くようになっています。美術館見学と違い、自由見学となっています。傾斜のきついところも多く、荒れたところもたくさんあり、私も友人も偶然ですがブーツを履いていたので助かりました。まるで登山をしているようで、ハイヒールでの見学の方は歩きにくいようでした。

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精錬所の歴史ですが、約100年前(1909年)に銅を精錬するために設けられた施設で、わずか10年で幕を閉じることになりました。銅価格の急落によるものだそうです。歴史に詳しくはないのですが、第一次世界大戦も終焉を迎え好景気に沸いていた製造業もその反動で戦後恐慌に陥ったわけで、その短い操業にもうなずけます。本当に短い歴史だったんだなと、感慨深くその残された建築群を眺めました。通常ならば事業が終わると、その跡地はまた何らかの有効利用が図られ、現存していることなど稀であろうと思うのですが、当時には屋根もあったであろう施設の壁と煙突だけが残っており、まざまざとその歴史とその時間の長さを感じることができます。

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現存している煙突は、ところどころ崩れかかっていて、哀れにも、力強くも、儚さも、無言で多くのことを語ってきます。精錬所ってどんな作業風景かは知らない私にも、当時の作業をされている方達の姿が目に浮かぶほど、灼熱の環境で重たく熱く真っ黒になりながらの多くの姿が想像できました。操業を終えた後、好景気に沸く世の中で希望を持ち働いていた人たちにとって落胆も大きかったであろうと、そんなことまでも見えてくるようで、今の時代と重ね合わせてみることもでき、頑張って未来を創ろうね!とも聞こえてきて、私達にエールを送ってくれているようでもありました。希望と未来というキーワードが頭の中でこだましました。

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敷地をくまなく散策することは禁じられており、倒壊寸前の煙突や陥没しそうな区域が有りますので、それらに近づけないようロープが張り巡らされ、遠くから煙突を眺めることになります。ですので、危険はなく安心して見学できます。しかし、好奇心旺盛な私はちょっぴりロープを跨いで、煙突の根本に立ち見上げてみたいなという衝動にかられましたが、子供も大勢いますので、そんな気持ちになった自分をたしなめつつも、遠くから赤茶色の組石造作りの天高くそびえる煙突を眺めていました。私が住んでいるところは海岸近くの町で、近くに煙突がある工場も多くあります。現代の煙突は作りからして、それとは違い、カラフルな色が施され、航空法での衝突防止のためのランプもつき、まったくそこから受ける印象は異なります。原始的でもあり、レンガを一つ一つ積み上げていく職人さんの姿がはっきり見えるくらい、手作りの構造体の逸品です。

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発電所へ向かう途中、妙にやわらかい感触が歩く足に伝わってきて、地面を踏みしめる音も「ザクッ、ザクッ」と音をたてます。なんだろうなと、その地面の土を一つまみ手に取ってみると、それは土ではなく黒いガラスの粒状のものでした。スラグの細かい粒です。すごく心地よくて足にも優しく、素敵な見学の一助を担ってくれました。人間の感覚は繊細なんだなと、しかし、経験をしたことの無い感覚だったのでそう感じた理由もわからず思わず手に取ってしまんたんですね。少しだけそれに似た感触は、沖縄の海岸のサンゴの死骸でできた砂浜を歩いたそれです。

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いよいよ発電所に到着です。ここまで来るのに登ったり下ったりを繰り返したので、既に汗だくです。そんなことを想定したかのように、椅子が設置されていて、到着した人たちはめいめい椅子に掛け一息ついていました。正面をみると、レンガで積まれた壁だけが残った発電所が見えました。屋根を鉄骨(この規模では木造ではないとは思うのですが)で支えていたと思われる梁の形がその壁にくっきり残っています。窓はもはや跡形もなくその形がくり抜かれたようになっていて、その穴(開口)から向こうの緑をそれを額縁としたように絵画の如く見ることができます。しかし、もっともそれを強調したのは、その壁を大きく縁どる緑の額縁でした。決して荒廃したという雰囲気ではなく、自然による風化が作り上げた芸術です。舞台装置にも見え、そこで活劇やコンサートを行えば、趣のある催しができるのではないかと。見る人によっては戦争による破壊を受けた建物に見えるかもしれませんが、私には、きれいに歳を重ねた老人に見えたのです。苦労も喜びも多くの体験したことをかみしめながら、笑顔で微笑んでくれているようでした。

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発電所を後にし、最後のエリアに行きます。また、あの感触の良い小道を戻り作業場跡に到着です。整然とした矩形のプランで構成されており、作業通路であったであろう場所を中心にした空間を歩いて行きます。その空間に垂直に規則正しく配列された壁がリズミカルであり、スラグを再利用した黒く光っている再生レンガが重厚な質感と輝きをはなっています。上から見ると安藤忠雄建築の模型や図面の記憶がそれと重なりました。想像ですが、当時はトップライト付きの屋根が架かっていて薄暗く換気も悪かっと思うのです。きっと過酷な労働でくたくたになりながらそこで働いていたのでしょうね。まさか、100年後の私達が芸術を観る目的でこの島を訪れ、こんな想いを抱きながら見学をしているなんて、当時の方々は夢にも思わなかったはずです。歴史をたどっていくことの意味が少し分かったようです。未来を創りあげていく私たちが、過去の遺産を巡り多くの気づきや思考を経て、歴史、偉業、文化、文明等を咀嚼し、輝かしい未来への想いと行動を起こしていく原動力なのかと。大袈裟すぎました。一杯頭の中を様々な想いが駆け巡ったんです。

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後は出口をめざして帰路へと、確実な見学の手ごたえを得た私は、あるものを発見。かわいらしい小さな真っ白な小屋です。精錬所の対岸にある小屋なのですが、難しく考えながら見学していた気分を、南国の孤島へのバカンスへ連れって行ってくれました。ハワイアン音楽が頭の中で鳴りはじめました。アロハな私もダンスを踊っています。ハワイは行ったこともないし、音楽も聴いたこともないですが、そんな気分になりました。素朴な小屋です。飾りっ気もなく豪華さもありませんが、決して自然に負けることなく、堂々と自己主張しておりました。そして、自然に溶け込んでもいました。素敵でしたよ!

自分の日記に書き留めるだけでよかったのですが、大変印象的で多くのことを考えることもできたので、ブログに訪れてくださる方にぜひ読んで欲しいなと思い、ブログにアップすることにしました。最初は写真と短文だけのつもりだったのですが、気が付くとこんなに長くなってしまいました。最後まで読んでくださってありがとうございます。

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by pinkyarc | 2012-10-14 23:31 | 建築探訪 | Comments(6)
Commented by belgium44 at 2012-10-15 19:36
こんばんは~♪
犬島という島をはじめて聞きました。
今にも崩れ落ちそうな煙突は、修復なしでロープで張っているだけなのでしょうか。
寂しそうな鍛練所跡と、島の中から見える瀬戸内海の綺麗な景色の対比がなんとも・・・・
まだ直島にも行ったことがなくて・・・
瀬戸内海の小さな島々を周る旅もいつかしてみたいなぁ。
Commented by pinkyarc at 2012-10-15 22:27
⇒belgium44さん
こんばんは。コメントありがとうございます。私も最近まで犬島についての知識もなかった一人です。アートプロジェクトのサイトはあるんですが、あまり情報がなかったので、行き当たりばったりの旅になりましたが発見は多かったです。煙突等はおそらく修復無しの状態で、立ち入り禁止にされているだけだと思います。遠くからなのではっきりとはわかりませんが・・・島々めぐりも息抜きにとってもいいですよ♪ 
アクセスなども考えるとやはり直島からの見学がおすすめです
Commented by hajipon-photo at 2012-10-16 00:18
先月、会社の同僚と犬島へ行こう企画あったのですが、宿泊施設の予約に限りがあって、自分も含む数名が断念しました。

4枚目か5枚目の写真、まさにあの構図で撮りたかったです(><)
Commented by pinkyarc at 2012-10-16 08:14
⇒hajiponーphotoさん
コメントありがとうございます。
犬島旅行計画されていたんですね!たしかに宿泊施設は少ないようでした。複数人利用なら精練所前のコテージでしょうか?その日も賑わってました。是非、また機会があれば訪れてみてください。写真には詳しくないですが、ここは一枚の絵になる写真を撮れるスポットが盛りだくさんです。
Commented by komiti15 at 2012-10-16 13:41
造築物の古さに歴史のロマンを感じますね。
大勢の作業員が誇りと夢を持って過酷な労働に耐え見上げた空の色はきっと同じだったでしょう・・・。 貴女が立つその地に同じそうに立った私達の祖先が居たのですね~~。 まだまだ歴史は続きます。
いつかそこに立つ私達の子孫に何が残しているだろうか?
そう考えるとしっかり生きなくてはいけないと思えてきますね。
Commented by pinkyarc at 2012-10-16 19:49
⇒ komiti15さん
いつもコメントいただきありがとうございます。
過去、その場所おられた人達がどのようなことを感じ、どのような生活をしていたのか、またどのような思いでそこにいたのかを想像するのも建築の旅の醍醐味でもあります。komiti15さんが言われるようにしっかり生きていく為にも、(歴史のほんの一部かもしれませんが…)自分の手掛ける建物は、未来に恥じぬものを残していかなければならないと思っています。


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